本店のない百貨店の、
ローカル座談会

15店舗15通りの個性がある

大丸・松坂屋はよく「本店のない百貨店」といわれます。植物が環境によって色や形を進化させてきたように、札幌から福岡に展開する15店舗も長い年月をかけて地元に根付き独自の価値観を育ててきました。ここでは京都店、神戸店、札幌店、須磨店を代表するメンバーにそれぞれが手がけた「わが街らしい」プロジェクトと、その背景にある地元への想いを語ってもらいました。

Local Issue① 大丸京都店 営業推進部 K.T

京都の「ほんまもん」でありたい。

京都に必要な「大丸さん」でいるために。

平安時代から都であった京都に、大丸の前身である呉服店「大文字屋」が誕生したのは1717年。8代将軍・徳川吉宗による享保の改革がはじまった翌年のことです。何世代も京都に住まうお客さまにとって、唯一「大丸さん」と愛称で呼ぶ百貨店が大丸。一見親しみやすさを感じますが「きちんと、ほんまもんであること」を求めるご期待の現れでもあります。店先を漂うわずかな香りまで、京都の歴史にふさわしくありたいと背筋が伸びます。

100年後も必要なものを。

2018年から続く「古都ごとく京都プロジェクト」略してKKPは、京都を学び、伝え、街とともに発展してくことを目指す取り組み。例えば2020年には、江戸時代末期に大丸が受注したといわれる新選組の隊服「だんだら羽織」を復元しました。これは熱心なファンも多い新選組の羽織が一枚も現存していないことを受け、京友禅や草木染などの老舗の協力を得て街ぐるみで作り上げたものです。製作した2枚の「だんだら羽織」のうち1枚は新選組ゆかりの壬生寺に奉納し、もう1枚は大丸京都店が保有。壬生寺とともに後世につないでいます。(ちなみに新選組副長の土方歳三は松坂屋上野店で丁稚奉公をしていたといわれています)。

展示されている復元された新選組の羽織

また、小学校の発祥が京都であることに由来して生まれた「だいまるきょうとっこがくえん」は毎週末に開催する定番企画。地域の人々が地域の子どもを育てるという日本で初めての「番組小学校」の考え方に倣い、祇園祭では浴衣を着て粽(ちまき)売り体験をするなど、ユニークな授業を届けています。いずれも京都の文化を、未来の「京都人」にささやかながら伝えていく取り組みです。

大丸を「使って」、京都に貢献する。

大丸京都店は、観光と文化を支える視点でも地元に貢献していこうとしています。かつて私が化粧品の販売員をしていたとき、お客さまから「祇園祭の安産祈願の粽(ちまき)はどの山鉾で買えばいいのかしら?」という質問を受けたことがあります。これは京都人といえどもなかなかすぐには答えられない難問でした。

慌ててバックヤードに戻り、「祇園祭山鉾連合会」に連絡。「選択肢は3つあるが、大丸さんからなら占出山(うらでやま)がすぐ近く」とアドバイスをもらって。それをお客さまに伝えると、大変喜んでいただけたんです。

この出来事をきっかけに、京都の百貨店で働くなら京都のことを知っておくべきだと思うようになりました。それから京都検定(京都・観光文化検定試験)を学びはじめ、現在では「京都検定」の受験が店舗の恒例行事に。初回は京都店から320人が受験したこともあり、休憩室や食堂で問題を出し合う姿が見られ、京都好きが開花したメンバーもいました。

京都生まれ京都育ちで、大の京都ファンでもある私にとっては、京都の発展のために「大丸を使わせてもらっている」感覚。KKPも早5年。世界有数の歴史観光都市に根を張る百貨店として、やるべきことはまだまだあります。

プロフィール

K.T/大丸京都店 営業推進部 店舗戦略 KKP担当
1979年生まれ。2002年大丸(当時)入社。大丸京都店婦人雑貨子供服部(化粧品・アクセ・ハンドバッグ)、コスメショップ<アミューズボーテ>立ち上げを経て、2018年から現職。2020年京都産業大学日本文化研究所特別客員研究員。

Local Issue② 大丸神戸店 営業推進部長 Y.O

神戸らしさそのものをつくる。

神戸店は、神戸の風景。

1819年生まれの大丸神戸店は、「ローカリティを大切にする」という大丸・松坂屋らしさをもっとも体現する店と言えるかもしれません。1987年当時、夜は歩く人も少なかった神戸の旧居留地に商業を持ち込み、石造りの建物、ガス灯の街灯など、クラシックモダンな街並みを活かした周辺店舗の開発を続けてきました。今では旧居留地エリアで展開する店舗は50にも及びます。実は新入社員のなかには、「街づくりをしてきた百貨店」という姿勢に共感して入社してきたメンバーもいます。

そんな神戸店で受け継がれるのは「神戸の街のために」という価値観。1995年の阪神淡路大震災では館の3分の2が倒壊するも、3ヶ月後には百貨店らしい立ち振る舞いでお客さまをお出迎えし、神戸の人々を元気づけたというエピソードも。ファサードや回廊などの美しい外観、ハイブランドが街並みを活かしながら軒をならべる様子など神戸らしさを示す話は数えればきりがありません。

空いているスペースも、街のために。

2023年からは、街並み開発のあたらしい取り組みとして、「SKWAT」とタッグを組み、パブリックスペース「新居留地」の展開を始めています。「SKWAT」は建築家・中村圭佑氏を中心に「都市の空きスペース」を再構築して文化の発信拠点とする取り組み。ちょうど旧居留地エリアでテナントの入れ替えがあり空きスペースができていた時期に、原宿やミラノでの「SKWAT」の事例を知り、すぐにアポイントを取りました。彼らが神戸の街に提案してくれたのは、およそ150年前にJ.Wハートが手がけた外国人居留地の特徴だった「瓦屋根」と、「LGS」という軽量鉄骨を掛け合わせたインスタレーション。休憩スペースとして憩えるだけでなく、建築の内装資材である「LGS」を使って構成することで、次に入居するテナントがそのまま内装の一部を下地として引き継げるようになっています。

休憩スペースの使用イメージ

金太郎飴では意味がない。

京都で支持されているものをそのまま神戸に展開すれば良いわけではないというのがローカリティのおもしろいところです。「経済的な効率は悪くても、一つの土地に尽くしていく」という姿勢は大丸・松坂屋の各店に共通しています。特に神戸店は、若手からベテランまでみんなが当たり前に神戸や旧居留地の街並みを意識して行動する癖がついています。洋菓子のHPも、イベントの企画も、広告の表情も、毎日のすべてが街の開発につながっています。

プロフィール

Y.O/大丸神戸店 営業推進部長
1975年生まれ。1997年大丸(当時)入社。大丸京都店婦人雑貨子供服部、同営業推進部、大丸コム開発(千里中央オトカリテ館長)、GINZA SIXリーシング担当、大丸神戸店営業推進部、本社経営企画室を経て2019年大丸須磨店長に着任、全館改装を主導。2021年から現職。

Local Issue③ 大丸札幌店 VMD H.M

自然と生きる街の百貨店として。

ローカライズは少しずつ。

松坂屋名古屋店には400年、大丸京都店には300年の歴史がありますが、大丸札幌店の歴史はわずか20年。大丸の英知を結集し「百貨店の正統」を目指して北海道に札幌店が開店したのは2003年のこと。それから20年。短いようで長い月日は「自然と生きる街の百貨店」に少しずつ変化をもたらしています。

自然と共存する。里山を元気にする。

「林業」をテーマにしたプロジェクトもその一つ。2020年のクリスマスキャンペーンでは、木こりを職業とする人たちとの出会いをきっかけに、林業=木材ではなく、その背景にある生活文化の豊かさに着目するようになりました。期間中に開催したイベントでは、ヤマ仕事で木材を運び出す「馬搬」の馬が札幌店に登場し、幼少期に馬と生活していたおじいちゃんおばあちゃんが涙を流して懐かしむ場面も見られました。木こりのみなさんをはじめ、北海道には独自の文化に誇りを持ち、楽しんでいる若い方が多くいます。彼らに教えてもらうことは本当に多いです。

建物内に気を使ったオブジェを設営している様子

昨年から、札幌駅から車で20分の場所にある小別沢という里山に社内の有志で通っています。社内での活動名は「大丸農園部」。地元の人たちや札幌市が主導するプロジェクトの一環で、農業従事者の高齢化により使用されていない農地の活性化を目指しています。里山の一画120㎡の畑で自分たちの野菜を育てたり、近所の笹を刈って円山動物園の象にプレゼントしたり、農作業中に人々が利用できるように木製のトイレを製作したり。いずれは食品フロアで「大丸農園部ブランド」の野菜を販売してみたいと考えています。

まずは足元から。考えてみる。やってみる。

この活動には「借り物のサステナブルから脱却したい」というテーマもあります。元々、そもそも持続可能性とは何なのか、具体的にどのような可能性があるのか、当事者として体感しないことには前に進めないジレンマがありました。この里山を中心に集まる木こり、レストランオーナー、農家、市役所職員、建築家、アーティスト、デザイナーなど、さまざまな立場の人と会い、この地の文化と生きてきた方々の教えを受ける中で、本質的な問いに辿り着けたらと思います。

プロフィール

H.M/大丸札幌店 VMD担当
1973年生まれ。2006年大丸(当時)入社。大丸心斎橋店 営業推進部VMD担当、大丸神戸店 営業推進部VMD担当を経て、2019年より現職。

図書館の木の椅子に座ってふたりの子供が本を読んでいる
Local Issue④ 元・大丸須磨店 店長 Y.O

つくりたいものではなく、必要なものを。

百貨店も、おせっかいをしていく。

ひと世代前まで百貨店といえば「都会的なセンス・最新のファッション」のイメージでした。神戸の中心市街地から電車で20分の住宅街にある大丸須磨店は、そのイメージを吹きとばす百貨店かもしれません。いうなれば「百貨店以上、行政未満のおせっかいな人たち」。街のために必要なことがあれば、喜んで手をあげて関わっていきます。

必要なのは、図書館でした。

というのも須磨店がある神戸市は現在、人口減少に直面中。その対策として郊外に生活しやすい環境を整備している最中なのです。そんな時、街に一番必要なものは何だろうと考えて、須磨店4階の約400坪のスペースに「市立図書館」を作ることを提案し、2021年「神戸市立名谷図書館」が開館しました。

須磨区は自然と街が調和する地域で、南北に縦に長い地形が特徴。そのせいか、南部にある区役所よりも、北部の大丸須磨店の横にある支所を利用する住民の方が多いと聞いたことがありました。こうした何気ない情報も発想のヒントになりました。

百貨店に図書館?という驚きの声もありましたが、須磨店はもともと食品フロアの日常利用が多い店舗。そこに便利な図書館があればお客さまにも来ていただけるし、何より街の魅力が高まると確信がありました。それまで神戸市に11あった図書館は月曜日が定休日なので、名谷図書館は火曜日を基本的な定休日に。神戸市は何曜日でも図書館が使える市になり、名谷図書館には毎日1,400-1,500人の方が来館くださっています。

撮影:浅野 豪

買いたいより先に、心地よいを。

いま、地方や郊外の百貨店は次々と閉店を迫られています。厳しい状況には変わりありませんが、須磨店の場合は街のポテンシャルを理解し「暮らしに必要なこと」を実装し続けた結果、多世代が交わるハブになりつつあります。

地域のコミュニティーと共にあるために、スペースがあれば売り場を詰め込むのではなく、ベンチを置く。大きな吹き抜けはそのまま残し、悠々とした空間を楽しんでいただく。一見、商売人としてのセオリーは無視しているように思えますが、逆にそれが「百貨店的」だと言われます。つくりたいものではなく街に必要なものを。その先に百貨店の新しいあり方が見え始めた気がします。

2名の男性と1名の女性が椅子に座って話している様子
※所属部門/役割は2023年8月時点のものです
www.daimaru-matsuzakaya.com